成熟日本への進路  「成長論」から「分配論」へ
著者:波頭 亮
出版社:筑摩書房/価格:¥819
オススメ度:★★(最高は★★★)



成長社会は終わったとする著者が説く、新しい分配社会について記した1冊


著者はまず、国家ビジョンを示すべきと説き、それを経済成長が望めなくなった今は、経済成長ではなく「国民なら誰もが医・食・住を保障される国作り」に設定する。
経済産業中心の政策ではなく、福祉重視の政策に転換すべきであると主張するのである。

具体的には、医療・介護の無料化、生活保護の拡充を図り、安心して生活できる成熟社会を構築するのである。
そのために必要なコストは24兆円
コストは相続税や金融資産税などの増税で賄うが、この負担率はヨーロッパ諸国と比べると低く、実現可能だと試算している。


かといって、著者は福祉政策一辺倒の人というわけではない。
「外貨を稼げる産業の育成」を掲げ、付加価値の高い環境産業の育成も重要であると説く。
また、「高福祉だからこそ自由経済」との主張は斬新であり、注目に値する政策である。


ただし、本書の主張の前提条件である経済成長の終焉については、疑問が残るところである。
経済成長の終焉について、最初の1章を説明に当てているが、
・GDPの頭打ち
・労働人口の減少
・労働生産性の頭打ち
などを根拠としている。

しかし、労働人口が減少している国でも経済は成長している。
労働生産性にしても、日本より労働生産性の高い国は数多くあり、まだ上昇が望める可能性は十分にある。
GDPの頭打ちは、成長阻害の要因などではなくただの結果であり、根拠になりえない。


本書は基本的には無成長の成熟社会における在り方を示しているが、著者は元は成長論者であったこともあり、福祉イデオロギーの塊ではなく、要所要所に成長論を散りばめた内容になっている。

個人的には経済成長の終焉には同意できないが、低成長社会における政策として取り入れる方が良い思うものもある。
よって評価は★★としたい。